流星電波観測反射領域
流星電波観測反射領域とは,流星電波観測が観測しているであろう上空の領域を算出したものであり,いくつかの前提をおいて算出しています.
反射領域を意識する理由
流星電波観測は,送信された電波が流星飛跡に散乱され,送信局から遠く離れた地点で受信して観測する「前方散乱」という手法を用いています.
従って,眼視観測であれば見ている領域は観測地点の上空になりますが,電波観測はそうではありません.送信局からの電波は流星の飛跡に入射角=反射角で散乱されて受信局に届きます.つまり,流星飛跡の地上に対する角度(流星群だとこれを放射点高度という)によって,その場所が大きく異なり,必ずしも受信局の上空だけを見ているわけではないということです.
反射領域の考え方
流星電波観測では,一般的に流星が形成した電子濃度の濃い「電離柱」(流星飛跡)に対して,電波の入射角と反射角が等しいという条件が成り立ちます(アンダーデンスエコーにおいて).流星電波観測で観測している反射領域を計算していくにあたり,順を追って考えていきます.なお,特に断りがない限り,アンダーデンスエコーを前提に話を進めます.
二次元でまずは考える(イメージをつかむ)
流星電波観測で観測している反射領域とはどういう特徴があるのか,まずはそのイメージを掴むために,二次元で見てみます.
上の図は,横軸を送受信局を含む直線(0が送信局と受信局の中間地点),縦軸が地上からの高度(発光高度:単位はkm)で表記しています.その時は以下の特徴があります.
- 入射角=反射角が成立するのは送受信局を焦点とした,楕円体上に存在する
- 発光高度を固定すると,楕円体の長半径を長くしたときに,100kmとの接点は遠くなり,突入角度が大きくなる
- 楕円の長半径を固定すると,発光高度を高くしたときに,接点は近くなり,放射点高度が低くなる
- 流星ベクトルと楕円の法線ベクトルの内積は0になる
三次元にする(楕円を回転させる)
次に縦・横・高さの三次元にします.先ほど平面で見ていた楕円を回転させます.
この時の特徴です.
- 入射角=反射角を満たす点は送受信局を焦点とする回転楕円体上に位置する(上図)
- 流星ベクトルと回転楕円体の法線ベクトルとの内積が0になる点を求めると,ある長半径・高度において,接点は正負2か所存し,その接点は、流星の突入角度と方位角に依存する(下図)
反射領域を数式で表現する
さて,図のような二点を求めるために簡単な二次元方程式を解きます.地球は平面と仮定し,回転楕円体の長半径をaとおき,x,y,z平面において,まず,回転楕円体の式は,以下のように示すことができます.
このとき,dは送受信局間距離の半分です.もうひとつの条件である,流星ベクトルと法線ベクトルの内積が0であることは以下の式から表すことができます.ここで,変数p,q,rは流星ベクトルの成分表示.
このふたつで連立方程式をたて,これらを解いて理論的に入射角=反射角を満たす上空での領域を計算します.
日本の主要都市における各主要流星群の反射領域を計算しました.なお,この計算は福井高専53.750MHzの送信局を前提にしています.当然,送信局が異なれば,シミュレーション結果は変わってきます.もし,違う送信局や流星群でのシミュレーションが必要な方や,ご自身の観測地でのシミュレーション結果が欲しいという方は,個別にお問い合わせ頂ければ,時間を少し頂くかもしれませんが対応します.
反射領域計算結果
日本の主要都市における各主要流星群の反射領域ご留意事項
- 計算は2012年など特定の年で行っていますが,毎年この日はほぼ同じ条件となります.同様に前後1日はほぼ同じ条件ですので,これらの結果を同様に参考されてください.
- この反射領域計算はUtsumi 2002 の論文に沿って若干の改良を加え,公開しております.ここでは幾何的に観測し得る条件が成り立つ空域を反射領域としています.この反射領域には,電気的な仮定はほぼ100%含まれていません.従って,これにアンテナの指向性,反射に依る偏波等の仮定の導入が要求され,これを含めると結果はさらに狭い反射領域もしくはそもそも反射領域が存在しないことが予想されます.
- 本計算は,アンダーデンスエコーを仮定していますので,オーバーデンスエコーやロングエコーにおいては必ずしも当てはまりませんのでご注意下さい.特にペルセウス座流星群やしし座流星群は,53MHzの場合,観測されるエコーのほとんどがオーバーデンスエコーですので,本反射領域シミュレーションはほぼ当てはまらないと思います.
参考資料
- Junichi Watanabe (1984): Expected Region of Shower Meteors Detectable by Forward Scattering Method (II), Radio Meteor Research, 12, pp4-21 (in Japanese)
- Yosuke Utsumi (2002): Simulation for Detective Field of HRO, 2002 International Science Symposium on the Leonid Meteor Storms
- ふたご座流星群における反射領域の考察(HROとFROの違い) 第8回 流星電波観測者懇談会(2022.01)-小川宏